
日本でタコというと、もうすっかり日常の食べ物ですよね。タコ焼きはお祭りの定番だし、寿司や刺身、煮物、酢味噌あえ――日本の食卓や居酒屋メニューには欠かせない存在です。
そんな“国民的な食材”であるタコですが、ちょっとびっくりな事実があります。実はその多くがアフリカからの輸入品だって知っていましたか?タコというと、なんとなく地元の海で獲れてそうな気もしますが、現実には西アフリカの海が、日本のタコ文化を支えているんです。
ここでは、アフリカがタコの産地になっている理由と、その背景について深掘りしていきます!
スーパーで売られているタコのパック。ラベルの「原産国名」をよく見てみてください。かなりの確率で「モーリタニア産」や「モロッコ産」と書かれているはずです。
実際、日本が輸入しているタコのうち8割以上がアフリカ産という年もあるくらい。なかでもモーリタニアは、日本にとって今もっとも重要なタコの供給国となっています。
日本では年間5万トン前後のタコを輸入していますが、そのうち3万トン以上がモーリタニア産という年もあるほど。これはもう、日本の“タコ焼き”のかなりの部分が、アフリカの海で始まっていると言っても過言ではありません。
アフリカでタコの漁獲といえば、モーリタニアとモロッコが2強です。両国の「タコ事情」は以下の通り。
モーリタニアは西アフリカの国で、大西洋に面した長い海岸線を持っています。 この沿岸海域はカナリア海流と呼ばれる寒流が流れていて、そこに深海の栄養たっぷりな海水が湧き上がる「湧昇(ゆうしょう)」という現象が起きるんです。
この現象のおかげで、プランクトンが豊富に発生し、それを食べる魚やイカ、そしてタコにとって理想的な環境になっているんですね。
モーリタニアのタコは歯ごたえがよく、旨みが強いとされ、国内の加工業者や飲食店にも重宝されています。しかも冷凍流通が進んだことで、遠く離れた日本にも鮮度を保ったまま届くようになったんです。
実は2000年ごろまでは、アフリカ産タコ=モロッコ産というイメージが強く、日本の輸入タコの6割以上がモロッコ産という時期もありました。
モロッコもまた、寒流と栄養豊富な海に恵まれていて、漁業インフラも整備されていたことから、品質・量ともに安定した供給地として日本の業者から人気だったんです。
しかしながら漁獲の増えすぎによる資源の減少が問題となり、モロッコ政府はたびたび禁漁措置を取るようになります。その結果、より安定した供給を求めた輸入業者たちがモーリタニア産にシフトし、現在の構図ができあがったというわけです。
意外なことに、タコが大量に獲れるモーリタニアではタコを食べないという事実があります。
これは文化や宗教的な理由によるもので、「見た目がグロテスク」「海の“掃除屋”的な生き物だから口にしない」といった考え方があるんです。
そのため、タコの漁はほとんどが輸出専用。主な輸出先は――
特に日本は、モーリタニアにとって最大のタコ輸出相手国。その額は年間で約170億円にもなります。つまり、タコはモーリタニアにとって重要な外貨獲得手段なんですね。
モーリタニアの港町では、日本向けに冷凍・加工されたタコの工場が稼働していて、日本人技術者が関わるケースもあります。
さらに、日本のODA(政府開発援助)を通じて、漁港や加工施設の整備、漁業者の育成にも協力が行われているんです。
つまり、タコを通して日本とモーリタニアの間には“食”と“経済”の確かなつながりが生まれているというわけです。
普段、当たり前のように食べているタコ焼きやお刺身――その一切れが、アフリカの海からやってきたなんて、ちょっとロマンを感じませんか?モーリタニアの漁師さんたちが獲ったタコが、日本の食卓に届くまで。そこには、海を越えた協力と信頼のストーリーが詰まっているんです。